風況シミュレーションの精度について注意すべきこと



 近年、コンピュータの高速化やソフトウェアの進歩によって、風力発電のための風況評価の方法として、風況シミュレーション、つまりコンピュータによる数値計算が使われることが多くなってきました。また、そのシミュレーションの精度についても、技術者・研究者等によって実際の野外での風速・風向との検証がなされ、明らかにされてきました。

 一方、専門家でない多くの方にとっては、この分野特有の専門用語や、計算手法・ソフトウェアの仕組み(計算モデル)の理解が難しく、正しい解釈がされにくいといった側面があります。

 そこで今回は、気象モデルと言われる風況シミュレーションシステムにおける精度の解釈について注意すべきことを書いてみます。

 気象モデルでは、日本の気象庁などから提供される大まかな気象データを元にして、より細かな領域の風を計算したり、将来の風を予測したりします。そして、その計算の時間的あるいは空間的な細かさ(解像度)を細かくしていけば、より複雑な現象を再現することが可能になります。

 しかし、実測値とシミュレーションとで平均化時間を同じにしてこれらの値を比較した場合、シミュレーションの空間解像度を細かくするにつれて、個々の値のばらつきが大きくなり、例えば、二乗平均平方根誤差RMSEが大きくなることがあります。このとき反対に、平均誤差ME(あるいはバイアス)が小さくなっていくことがあります。

 つまり、風況シミュレーションの精度を考える場合には、その前提となる時間解像度や空間解像度も同時に考える必要があるということです。

 風速などの平均化時間で言えば、1時間平均値を比較するのか、10分平均値を比較するのか、1分平均値を比較するのかによって精度が変わってきますし、空間解像度で言えば、求める結果が1kmメッシュであるのか、100mメッシュであるのか、10mメッシュであるのかなどによって上記のような誤差、すなわち風況シミュレーションの精度も変わってくるためです。

 ただ、誤解の無いように申し上げると、実際の風の流れは複雑ですので、その複雑な流れの状況を再現するためには、より細かい解像度で計算するのが理想的です。しかし、細かい解像度のシミュレーションを行うには、スパコンなどの非常に高スペックな計算機が必要となったり、計算時間が膨大になったりしますので、現実的にはデスクトップPCなどでも可能な解像度でシミュレーションを行うことになります。また風況シミュレーションを行う場合には、その他にも、使用する乱流モデルや計算条件などについても考えるべきことがあります。

 シミュレーションにおいては、上記のよう計算条件が不適切であっても、何らかの結果が得られてしまいます。風況シミュレーションの結果を見るときには、表面的な数字だけでなく、その計算条件にも注目することが大切です。