気象モデルWRFによる高解像度風況シミュレーション
(高解像度風況マップの作成、アメダス観測値との比較)



 気象モデルWRF (Weather Research and Forecasting)は、米国のNCAR (National Center for Atmospheric Research)などで開発された、非静力学・完全圧縮の気象シミュレーションシステムです。メソスケール(中規模)の気象シミュレーションシステムとして、全世界で使用されており、風力発電分野でも頻繁に使われています。最近では、NEDOの洋上風況マップの計算システムとしても使われました。

 WRFでは具体的に、将来の気象予測や過去の気象の再現化計算が可能です。また、独自の実測データを組み入れた同化計算も可能です。以下では、気象の再現化計算の例を説明します。シミュレーションに用いるデータや計算領域は下記の通りです。

【ソフトウェア】 メソスケール気象モデルWRF (The Weather Research and Forecasting Model)V3.8 (http://www2.mmm. ucar.edu/wrf/users/)

【使用データ】
・地形データ: 国土地理院 基盤地図情報 10mメッシュ標高(ドメイン3、4) (https://fgd.gsi.go.jp/download/menu.php)
・土地利用データ: 国土交通省 国土数値情報・土地利用細分メッシュ(100mメッシュ) (http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/gml/datalist/KsjTmplt-L03-b.html)
・気象場データ: 気象庁メソ客観解析データ (http://www.jmbsc.or.jp/jp/offline/cd0380.html)
・土壌データ: アメリカ環境予測センター NCEP FNL Operational Model Global Tropospheric Analyses(NCEP FNL)(http://rda.ucar.edu/datasets/ds083.2)


【計算期間】 2016年11月1日〜10日(10日間)

【計算領域】
 今回は、計算の妥当性を確認するために、後でアメダスの観測データと比較します。そこで、鳥取県の中部にあるアメダス倉吉観測所を中心として、正方形の計算領域を設定します。


 WRFのシミュレーションでは、広い領域から段階的に、計算領域を小さくしていく手法(ネスティング)によって、目的地での解像度を向上させます(計算メッシュを細かくします)。本例では、下図の全体領域を最初の計算領域「ドメイン1(d01)」として、最小領域の「ドメイン4(d04)」まで、4段階で計算を行います。

計算領域
図:計算領域(ドメイン1〜ドメイン4)

・計算領域の中心座標: 北緯:35°28.4′、東経:133°50.3′
・各ドメインの計算メッシュ:
 ドメイン1(d01):格子幅2700m、東西格子数100、南北格子数100
 ドメイン2(d02):格子幅900m、東西格子数88、南北格子数88
 ドメイン3(d03):格子幅300m、東西格子数76、南北格子数76
 ドメイン4(d04):格子幅100m、東西格子数64、南北格子数64
・鉛直層: 各ドメインとも50層



【地形】
ドメイン3の標高
図:WRF計算実行に用いるドメイン3の標高


ドメイン4の標高
図:WRF計算実行に用いるドメイン4の標高





〜WRFによる高解像度風況マップ〜



 WRFによるシミュレーション結果について、地上高70m、50m、10mにおける10日間の平均風速をマップにしたものを以下に示します。ここでは、計算メッシュが最も細かいドメイン4について示します。


【地上高70mの平均風速マップ(100mメッシュ)】
地上高70mの平均風速マップ


【地上高50mの平均風速マップ(100mメッシュ)】
地上高50mの平均風速マップ


【地上高10mの平均風速マップ(100mメッシュ)】
地上高10mの平均風速マップ


 計算領域の北側には日本海があります。図を見ると、日本海に近い北側の方で風が強くなっています。また、丘陵地では、峰の部分で風が強くなっています。

 地上高10mの平均風速マップでは、河川など地表の状態が、より強く風に影響を及ぼしている様子が見られます。図の中ほどに南北に伸びる太いラインは、一級河川である天神川の通っている場所で、河川の上では、その周辺よりもやや風が強くなっています。




〜WRF計算結果とアメダス観測値の比較〜



 WRFのシミュレーション結果の妥当性を確認するために、アメダスのデータと比較してみます。アメダスデータと比較するのは、ドメイン4のアメダス観測位置に相当する計算領域中心における地上高10mの風速・風向です。ここで比較するアメダス観測所の概要は次の通りです。


【アメダス倉吉 地域気象観測所】
アメダス倉吉写真
・北緯:35°28.4′・東経:133°50.3′・標高:8 m
・風速・風向観測高度:地上高10m
・風速・風向出力:1時間平均値 ・風向出力:16方位




【WRFとアメダスの風速の比較】
 アメダスの風速は1時間平均で表示されています。そこで、WRFの計算結果を元に、1時間平均風速を算出して風速を比較します。

WRFとアメダスの風速の時系列
図:WRFとアメダスの風速の時系列データ(1時間平均値)

WRFとアメダスの風速の散布図
図:WRFとアメダスの風速の散布図(1時間平均値)

 今回の計算期間では、平均風速が10m/sくらいになっているときもあり、比較的風の強い時期のデータで比較しています。WRFとアメダスそれぞれの風速の時系列データを比較すると、概ね波形が一致しています。また散布図での比較では、相関係数Rは0.62となり、ある程度相関性が高いことが分かります。



【WRFとアメダスの風向の比較】
 次にWRFとアメダスの風向を比較します。アメダスの風向データは16方位で表示されています。そこで、アメダスの風向を「北→0°、東→90°、南→180°・-180°、西→-90°、......」と、数値に直してグラフ化します。


WRF風向とアメダス風向の時系列
図:WRFの風向(10分平均)とアメダスの風向(1時間平均)の時系列データ

 WRFとアメダスの風向を比較すると、ところどころで値がずれる部分はありますが、概ね同じような変化をしています。ただし、アメダスの風向データは分解能が粗いので、厳密な比較をするには、独自の風況観測データを用いるのが良いと思われます。



【まとめ】
 以上のように、WRFで100mメッシュの高分解能シミュレーションを行った結果、WRFの計算値は概ねアメダスで観測された風速・風向の変化を再現できていました。

 WRFでは計算設定の自由度が大きいですので、計算設定や、用いるデータによっては、実際とは違った風速・風向が出力される可能性があります。したがって、WRFでシミュレーションを行う際には、各サイトでの観測データと比較するなどして、計算の妥当性を確認しながら結果を評価するのが良いと思われます。