風力発電: 施工例 — 風力とエネルギー変換,ナセル制御盤,昇圧,基礎,接地,雷害対策(「電設技術」特集環境対応型電源,2009年1月より),
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※内容は、執筆時点(2008年現在)の情報に基づいています。


1.緒言
1−1 風力発電の現状
 1997年に京都議定書が締結されて以来,地球温暖化防止のために,省エネルギーへの取り組みと同時に再生可能エネルギーの活用が求められている.また,地球温暖化の問題に加え,石油産出量が山場を迎えたことを意味する「石油ピーク(1)」が到来している. 今後は,石油の需要に対して生産量が追いつかなくなることが予想され,再生可能エネルギーの導入と活用が急がれる.
 再生可能エネルギーの中でも風力発電は,21世紀の人間生活を支える有望なエネルギー源と考えられ,最近10年程の間に急速に導入量が拡大すると共に,技術革新と大型化が進んでいる(図1参照).



日本における風力発電導入量の推移
          図1 日本における風力発電導入量の推移(2)



世界の国別風力発電導入量
             図2 世界の国別風力発電導入量(3)
             (2007年12月末,上位15カ国)

 風力発電設備の大型化への進展は著しく,10年程前は定格出力100kW〜300kW程度の風車が主流であったが,5年程前からは定格出力1MW〜2MWの風車が主流となっており,最近では2MWを越える風車も導入されつつある.このような大型風車のハブ高さ(プロペラの中心の高さ)は,1MW級風車では60m以上,2MW級風車では70〜80mにも達する.
 世界に目を向けると,図2に示すように欧米を中心とする国々の風力発電の導入量は多く,さらに最近では洋上風力発電(図3参照)の導入が進みつつある.洋上に風車を建設すれば,住環境から隔離できるため,騒音問題や事故による潜在的な危険性が少ない.さらに洋上は陸上と比較して風が強いため,より多くの風力エネルギーが得られるという利点がある.
 日本においても,独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)等によって,洋上風力発電の実証試験が始まろうとしている.
 NEDO技術開発機構は,風力発電を含む新エネルギーに関する調査研究,設備導入に対する補助金の給付,普及啓発などを行う機関であり,日本における風力発電導入の重要な役割を担っている.
 またNEDO技術開発機構の発行している「風力発電導入ガイドブック(4)」は,風力発電における国内外の動向から導入計画・方法まで網羅された資料であり,風力発電事業者や設備の施工に携わる技術者が特に参考とすべき文献として挙げられる.


1−2 本稿の構成
 本稿は,以下の章によって構成する.
第1章 風力発電の現状
第2章 風力エネルギーと風況精査
第3章 風力発電システム
第4章 風車用電気設備と発電機制御盤
第5章 関連法規
第6章 雷害対策と接地
第7章 導入計画と施工
 本稿を執筆するにあたっては,上に述べた理由から「風力発電導入ガイドブック」の記述を参考としたところは多く,第2章,第3章,第7章は,最新の「風力発電導入ガイドブック(2008年2月改訂第9版)(4)」の解説を参考にまとめている.
 また,第3章,第4章は(財)新エネルギー財団が発行している「新エネルギー人材育成研修会 テキスト:風力コース(5)」の解説も参考にしている.
 風力発電における最近の落雷対策については,電気学会が発行している「電気学会技術報告:風力発電設備の雷害様相ならびに対策の現状(6)」にまとめられているため,第6章はこの文献を特に参考にしている.その他,必要に応じて論文などを引用している.
 また,風力発電の基礎およびタワーにおける最近の技術動向ついては,本稿では解説していないが,土木学会が発行している「風力発電設備支持物構造設計指針・同解説[2007年度版](7)」に詳しく解説されている.この分野を学ばれる方は,本文献を参考にされたい.
 なお本稿では,鳥取県企業局の協力により,図4に俯瞰写真を示す「鳥取放牧場風力発電所(8)」(以後は「鳥取放牧場」と略す)の施工過程の写真等を,風力発電所の建設事例として示している.



鳥取放牧場風力発電所
          図4 鳥取放牧場風力発電所
           (定格出力1,000kW風車×3基)


2.風力エネルギーと風況精査
2−1 風力エネルギー
 風は空気の流れであり,風の持つエネルギーは運動エネルギーである.風速をV (m/s),風車を通過する空気の質量(質量流量)をm (kg)とすると,運度エネルギーは,1/2mV 2で表される.受風面積A (m2)の風車を考えるとき,この風車を単位時間当たりに通過する風速V (m/s)の風のエネルギー(風力エネルギー)P (W)は,空気密度を (kg/m3)とすると式(1)によって表される.

風力エネルギーの数式      (1)


 この式から分かるように,風力エネルギーは,受風面積に比例し,風速の3乗に比例する.つまり風速が2倍になれば,風力エネルギーは8倍になる.したがって,風車を設置する場所には,少しでも風の強い所を選ぶことが必要である.


2−2 大気境界層
 空気の運動は,気圧の勾配,地球の自転による転向力,地表の摩擦等に左右される.風は地表の植生,建物等による摩擦の影響を受けるため,地表に近付くにつれて弱くなる.地表の摩擦の影響が及ぶ高度1,000m程度までの範囲を大気境界層といい,さらにその上部は自由大気という.大気境界層はさらに,地表から100m程度までの地表境界層(接地層ともいう)と,その上の上部摩擦層(エクマン層ともいう)に分類される.
 地形の起伏,植生,建物等の粗さを地表の粗度という.地形が複雑になるほど粗度は粗く,粗度が粗くなるほど,風速が弱くなる傾向がある.


2−3 べき法則
 風車が設置される高さは,上記の地表境界層の中である.この層内における風速の高度分布は,経験的に式(2)によって表される「べき法則」が成り立つことが知られている.

べき法則の数式               (2)
べき法則の記号


 「べき法則」における「n値」は,地表の粗度によって変わる.「べき法則」によって上空の風速を推定しようとする場合,平坦な海岸地域等ではn = 7,内陸ではn = 5程度が用いられる.
 また実測による2点以上の観測高度の風速値から,最小二乗法を用いて「n値」を求め,風車のハブ高さにおける風速を「べき法則」によって外挿して推定することができる.しかし,建物や樹木の影などで測定された風速によって「n値」を求めると,「n値」によって上空の風速が大きく異なるために,上空の風速を的確に外挿できない.
 図5は高度30mにおける風速が5m/sのときの,「n値」の違いによる風速の高度分布の違いを示している.このように「n値」の違いによって上空の風速が大きく異なるので,「べき法則」を用いて上空の風速を推定しようとする場合は,周辺の状況や観測高度なども考慮して用いる必要がある.



風速の高度分布
  図5 「べき法則」を用いた風速の高度分布:
   「n値」による高度分布の違い


2−4 風況精査
 風力発電設備の建設予定地に風速計・風向計等を取り付けた風況観測タワーを設置して,十分な発電量を確保できる風が吹いているか検証することを風況精査という.一般的な風況精査では,図6のような,三杯型風速計,矢羽型風向計を取り付けた観測タワーを設置し,風速・風向を最低でも1年間観測する.
 観測後は,得られた1年間の風速データを風車のパワーカーブに当てはめ,予想発電量を試算する.これにより,十分な発電量が確保できるかどうかを確認し,事業化の可能性を評価しなければならない.また,複数の地点で風況精査を行い,より風速の高い地点を風力発電所の建設地として選ぶことも行われる.



風況観測タワー
          図6 風況観測タワー(4)


 風況観測タワーを設置する地点は,単機の風車の場合,風車の設置候補地点である.設置候補地点が多数ある場合,あるいは地点が未定の場合には,当該地域の代表的な風況特性を取得できる地点とされている.
 観測高度は,基本的にはNEDO「高所風況精査」における観測高度である地上高40〜50mとされているが,可能な限り設置風車のハブ高さで行うのが望ましい.
 大型風車のハブ高さは,1MW級風車では60m以上,2MW級風車では70〜80mとなっている.そのため,地上高40〜50mにおいて風況精査を行った場合,これより上空のハブ高さにおける風速は「べき法則」などによる推定によって評価されている.
 風力発電事業を可能とする目安として,地上高30mでの年平均風速が,6m/s以上であることが望ましいとされているが,最近では風車の大型化等によって単位出力あたりの導入コストが低減してきたことにより,風車ハブ高さにおける平均風速が5m/s台後半であっても,発電事業が行われる場合もある.



 

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