風力発電: 施工例 — 風力とエネルギー変換,ナセル制御盤,昇圧,基礎,接地,雷害対策(「電設技術」特集環境対応型電源,2009年1月より),
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※内容は、執筆時点(2008年現在)の情報に基づいています。




3.風力発電システム
3−1 風力発電システムの機器構成
 風力発電システムは,表1に示すように,風力エネルギーを機械的動力に変換するロータ系,ロータから発電機へ動力を伝える伝達系,発電機等の電気系,システムの運転・制御を行う運転・制御系および支持・構造系から構成される.
 現在の大型風力発電機のほとんどは,3枚のブレード(翼)を持つ水平軸のプロペラ式風力発電機である(図7参照).本章では,この3枚翼プロペラ式風力発電システムの仕組みについて述べる.


   表1 プロペラ式風力発電システムの構成(4)
プロペラ式風力発電システムの構成

3−2 ナセルの構造
 「鳥取放牧場」における定格出力1,000kW風力発電機のナセル構造を図8(省略)に示す.この風力発電機は,後で説明する「ピッチ制御」,「誘導発電機」を採用した「固定速風車」である.
 ナセル内に配置された各種の機器はナセル下部台板上に配置され,その下部はタワーとヨーの旋回座軸受で結合されている.発電機は後部に配置され,油圧装置からの高圧油は歯車の内部を貫通してロータにつながり,翼のピッチを制御している.
 ナセル台板は,各機器が搭載され風車全体の力を受けるものである.そして受けた力はタワーを介し,最終的にタワーは地上に固定される.ナセルやナセル内に配置される各機器は,変動する風の影響を受け,受ける力も変動する.
 ナセル台板上の発電機の出力は,ケーブル・変圧器を介して外部の系統とつながる.


3−3 運転方式(固定速風車と可変速風車)
 風車の運転方式として,発電機の回転速度を一定速度で行う固定速風車と,回転数を変化させながら行う可変速風車がある.
 誘導発電機を用いた固定速風車では,運転が一定速度で行われる.この際には風速変動によって出力が変化し,風荷重が衝撃的に,また繰り返し作用する可能性があるため機器の強度に影響を与える.
 しがたって風荷重低減には変動荷重を小さくする事が必要であり,その対策の一つが可変速である.可変速風車は,風速・風向変動を回転数変動に変えて機器にかかる風荷重を低減しようとするものである.
 これら2つの運転方式の特徴を以下にまとめる.
【固定速風車】
 系統の周波数と同じ,または少し高い回転数で運転される風車である.固定速風車では,起動後に風車を決められた回転数まで上昇させ,その後に系統へ電力を併入する.運転する回転数は多少の変動があるが,大きくは変化しない.
【可変速風車】
 回転数を風速によって変化させるので,発電機からは変動する周波数の電力が発生する.したがって,系統連系を行うために,インバータおよびコンバータといった変換装置を設ける.また,風速変化を回転数変化に置き換えることで風速の変化を受け流すように運転されるので,風速変化に対してクッションのような働きがある.
 可変速運転では,このようにロータの回転速度を風の強さに応じて変化させ,ブレードや主軸への荷重が軽減されるため,風車を軽量化しやすい.これにより風車のコスト低減が可能になるため,多くのメーカーが可変速風車を採用している.


3−4 発電機のタイプ(誘導発電機と同期発電機)
 風力発電機には誘導発電機と同期発電機の二種類の交流発電機が採用されている.発電用風車であるから電力送電の点から直流を用いることはほとんど無い.
 交流発電機の中でも誘導発電機は,近代的な風車の初期には広く用いられていた.これは,風車の出力が比較的小さく,系統連系が容易であったためである.また,負荷制御が不要であり,常に最大電力を供給すればよかった.
 しかし風車が大型化し,風車出力が増加するに伴い,その誘導発電機特性の系統への影響が顕著に現れるようになってきた.特に系統容量が小さい地域の場合,突入電流が大きくなったり,風速変動時の出力変動が大きな電圧変動を誘起したりすることもあったため,突入電流を抑制するために,同期発電機を採用するなどの対応がなされた.最近では大規模なウィンドファームが作られるようになり,電力変動抑制装置や電力変換装置,または電圧調整装置を採用して対応がなされている.
 以下に,これら誘導発電機と同期発電機の特徴をまとめる.
【誘導発電機】
 誘導発電機には,かご型と巻線型がある.また誘導発電機は単独では作動できず,回転磁界を作るための外部交流電源が必要である.
 かご型誘導発電機は,堅牢でメンテナンスフリーであるため,風車用発電機として一般に広く用いられ,世界の主流を占めている.また,機器の構造が簡単で安価に製造できると共に,運転保守が簡単であるため需要が多い.
 巻線型誘導発電機は,外部制御装置と連結して回転子側の特性を制御できるために,可変速風車用発電機として使われる.
 これら誘導発電機は,前述したような電圧変動の問題はあるが,構造が簡単で低コストであり,一般に広く用いられている.
【同期発電機】
 同期発電機は,起動後に回転数がほぼ同期速度になったら回転子内で励磁して電圧を系統線と同じレベルに上げることができるため,系統連系時に突入電流を抑制することが可能である.
 そのため同期発電機は,系統の容量が小さく,突入電流制限や風速変動による電圧変動の問題があり,複数台設置による出力変動の抑制効果も得られないような場所において導入が進んできた.
 しかし,風の変化が出力変化となるのため,通常運転中の出力変動は小さくならない.そこで可変速運転と合わせて同期発電機の電力変換装置(周波数変換装置)を設け,送電端では確実に周波数を一定にする方法をとっている例が多い.
 このように同期発電機は,電圧制御が可能なため,系統への影響が少なく,独立運転も可能という利点を持つが,誘導発電機に比べてコストが高い傾向がある.


3−5 制御機構
 風力発電機には定格風速があり,定格を大幅に超える速度で運転すると原動機の焼損やブレードの破損などを招く場合がある.そのため定格風速以上では風車出力の制御を行う必要があり,出力制御方式としてピッチ制御,ストール(失速)制御,アクティブストール制御が用いられている.また,風速がより過大になりカットアウト風速を超えると,一時的に発電を停止したりする.
 以下には,このような風車の制御機構について,それぞれ簡単に説明する.
【ピッチ制御】
 ハブの中には,ブレードを支える軸受とピッチを制御するピッチリンク機構がある.ピッチ制御は,風速と発電機出力を検知して,ピッチリンク機構によってブレードの取り付け角(ピッチ角)を変化させ,出力を高効率に制御するものであり,通常油圧で行っている.
 ピッチ制御システムは,出力制御を行うだけでなく,台風等による強風時にはピッチ角を風向に平行にし(フェザーリングという),ロータを停止させ風圧を小さくする機能や,回転数制御による過回転防止等の安全・制動装置としても用いられる.
【ストール制御】
 ストール制御は,ピッチ角を固定とし,風速が一定以上になるとブレードの形状の空気力学的特性により失速現象が起こり,出力が低下することを利用して制御するものであり,ピッチ制御に対して構造が簡単で低コストである.
 またブレードの先端には安全のために,エアブレーキ用チップ(過回転時などに先端がブレード本体に対して約90°の角度となり,空気力学的にブレーキをかける機構)を備えていることが多い.
【アクティブストール制御】
 アクティブストール制御とは,ストール制御用のブレード形状ではあるが,制御のためにブレードの取り付け角度を変化させることで,ピッチ制御と比較して運転中のブレード動作を最小限に抑えることができる方式である.またブレード先端のエアブレーキ用チップは用いられず,ピッチ制御とストール制御を組み合わせた制御方式である.
【ヨー制御】
 ヨー制御システムは,ロータの方向を風向に追従させるシステムであり,アップウィンド方式(風上にプロペラを向ける方式)の風車では強制(アクティブ)ヨーシステムを採用している.強制ヨーシステムでは,風向計によってロータに相対的な風向を検知して,油圧あるいは電動モータによるヨー駆動装置を用いて制御を行う.
【ブレーキ装置】
 過大風速の場合や緊急時に用いるブレーキ装置としては,ピッチ制御の場合のフェザーリング装置以外に,油圧によるディスクブレーキ等がある.
 ストール制御の場合では,ロータの過回転時にブレードの先端に装着されたエアブレーキ用チップが遠心力により作動する空力ブレーキを備えているものが多く,機種によってはヨー制御によりロータの向きを風向に対して平行にすることも行われる.
 また多くの風車は,風車の起動や停止,運転状態の監視や記録を行う運転監視装置を備えており,事業者の運転管理室等と電話回線を通じて,風車の遠隔操作を行うこともある.さらにメーカーやメンテナンス会社へも回線を接続して対応を行っている場合もある.


4.風車用電気設備と発電機制御盤
 風車は,機械動力系としてブレードと軸受および増速ギアボックス等があり,その後段に発電機,発電機制御盤,電力変換盤,変圧器,遮断器,系統連系盤等の電気設備につながることで発電設備を構成している.
 これらの機器の内,系統連系盤は,外部送電線との系統連系部を構成するため,外部に設置されることが多いが,その他の設備は,ナセル内,またはタワーの中に設置されていることが多い.


4−1 発電機の電圧
 風車に用いられる発電機の電圧は400V,575V,690V等となっており,電気設備技術基準における低圧および高圧の分類に属する.また系統連系を行う場合,設備容量により,高圧配電線(6.6kV)または,特別高圧配電線(33kV以上)に連系する場合がほとんどであり,連系電圧まで昇圧する変電設備と連系設備(保護装置等)が連系設備として付帯する.


4−2 発電機制御盤
 風車は風速の変動に応じた回転トルク変動を直接受けることになるため,風車からの発電出力は大きく変動することになり,通常の水力,火力発電設備のように発電周波数,出力を一定に制御することが困難である.
 現存する風力発電設備の大部分は,最寄りの送電線に連系されており,一般的には,系統の電圧および周波数にしたがって,系統への影響が少ない範囲で運転することが連系運転条件となっている.
 発電機制御盤は,発電機が,系統電圧,系統周波数に追従する形で運転されるため,これらの規定値範囲内で運転ができているか監視する.また,風車発電開始時(カットイン)の制御,暴風時の風車停止(カットアウト)の制御,風車の風向方向への制御(ヨー制御),風車ブレードのピッチ角の制御等を行うと共に,各部の温度上昇等を監視し,安定運転状態を維持する制御盤であり,加えて運転来歴を計測記録し,遠方監視装置からのデータへのアクセスを可能としている.


4−3 電力変換器盤
 従来の500kW規模以下の風力発電機では,比較的使用されていなかったが,1,000kWを越す大型の風力発電設備では,風車ブレードが最高効率点の回転数で運転できるように可変速運転する機械が主流になってきている.またこれにより,風速変動に伴う出力変動も大きく改善でき,定格出力を出す風速以上では,ほぼ一定出力を実現することが可能になっている.
 電力変換器盤は,発電機側の可変周波数で発電された電力を,整流器により一端直流の電力に変換し,その後,系統の周波数,電圧に合わせた交流電力に変換して系統に出力するものであり,インバータ盤とも呼ばれている.
 なお,電力変換器盤による大電力の直交変換が可能になったのは,使用されている半導体素子(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)の大電流化という技術の進歩があったためである.


5.関連法規
 日本においては,風力発電設備の安全性の確認,保安確保についての法規として,電気事業法および建築基準法等がある.
 電気事業法では,風力発電設備全体を対象としいているのに対して,建築基準法では,タワー部分と基礎部分を対象としている.これら法律の適用区分を図9に示す.



法律の適用区分
   図9 法律の適用区分


 さらに,風力発電電設備の電気設備には,下記の法規や基準が適用される.
・電気事業法
・電気用品取締法
・電気事業法施行令
・電気事業法施行規則
・電気設備に関する技術基準
・発電用風力設備に関する技術基準
・電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン
・内線規程
・高圧受電設備の施設指導要領
・高圧受電設備指針
・系統連系規程
・配電規程
・その他関係法令,条例および規格
 風力発電設備工作物の電気設備には,電気事業法の定めにより電気設備の保安確保のため,最低限の維持基準として「電気設備に関する技術基準」,「発電用風力設備に関する技術基準」等の省令が公布されている.
 また2004年10月には資源エネルギー庁から,系統に連系することを可能とするために必要となる要件のうち,電圧・周波数等の電力品質を確保していくための事項等について整理した「電力品質確保に係る系統連系技術要件ガイドライン」が発行されている.
 風車の強度に関しては,ブレードやナセルから受ける風圧と荷重をタワーや基礎によって支えるため,タワーおよび基礎の強度設計は,重要な検討項目である.
 2007年6月20日,改正建築基準法が施行され,高さ60mを超える工作物については「荷重および外力によって工作物の各部分に連続的に生ずる力および変形を把握」して構造計算を行い,国土交通大臣の認定を取得すべきこととされた.その詳細は大臣認定のための技術評価を行う指定性能評価機関の業務方法書によるものとされ,PS検層等を含む地盤調査や時刻歴応答解析を行うようになった.
 タワー本体を海外から輸入する場合は,設計手法,使用材料等が日本の基準・規格を満たしているか確認する必要がある.これら建築に関する基準・規格には,前述の「風力発電設備支持物構造設計指針・同解説(7)」に加え,下記の資料も参考となる.
・「鋼構造設計基準」日本建築学会
・「塔状鋼構造設計指針・同解説」日本建築学会
・「煙突構造設計施工指針」日本建築センター


6.落雷対策と接地
 雷の風車への直撃は,風車ブレードや電気機器の損傷を招く恐れがある.また,誘導雷による異常電圧が線路の基準衝撃絶縁強度を超えて,配電用変圧器や開閉器類の絶縁破壊,インバータの損傷,ヒューズ溶断等の雷害を招くことがあり,落雷対策は十分に検討する必要がある.
 「鳥取放牧場」の接地・落雷対策の概要を図10に示す.このように風力発電設備では,ナセル上の避雷針やブレード先端の雷レセプタ,制御回路へのサージ保護装置(SPD: Surge Protective Device)の取り付け,メッシュアースによる接地など,送配電設備における避雷対策を踏襲している.
 また落雷の多い地域では,電気・制御部品等の保護のために,通信ケーブルの光ケーブル化,電気・制御部品等へのアレスタの設置,配電線路との間の耐雷トランス等の取り付け等を行っている.
 風力発電システムの落雷対策については,未解明の問題も多く,調査・研究も進められつつあるが,以下に,風力発電設備の落雷対策に有効と考えられているレセプタや接地の方法などについて簡単に述べる.



レセプタ・避雷針・避雷接地による落雷対策
       図10 レセプタ・避雷針・避雷接地による落雷対策
        (鳥取放牧場風力発電所の例)


6−1 風車ブレードのレセプタ
 現在用いられている風力発電機の大半は,ナセル上に避雷針を設置すると共に,風車ブレードの先端に小型のチップレセプタ(受雷部,図10参照)を取り付けている.
 これは,レセプタからブレード内部に引き下げ導線を通して,大きな落雷であってもレセプタで雷撃を捕捉し,雷電流を安全に接地に流し込むことを目的としている.適切な引き下げ導体によって雷アークがブレード内部に発生しないようにすれば,ブレードの破損を抑えられると考えられている.


6−2 環状接地
 IEC61024-1では,雷保護装置の接地設備として,2通りの接地電極の形を推奨している.その一つは通常の垂直または水平導体であるが,もう一つは構造物の周囲を環状に接地する,環状接地(リング接地)である.
 環状接地は,比較的設置面積の広い構造物における複数の接地電極の等電位化を目的としている.
 IEC62305によれば,接地抵抗の違いにより不均等な雷電流が分布すれば,複数の引下げ導線が異なる電位を持つが,環状接地電極は同じ地表レベルにある引き下げ導線間を等電位にする役割を担うと説明されている.
 環状接地がどの程度接地抵抗の低減や等電位化に効果をもたらすかは,未だ良く分かっていないが,海外での研究によると,環状接地の導入により,歩幅電圧の最大値が半分以下に低減できることが事例として報告されている(6).


6−3 風車間連接接地
 IEC61400-24では,ウィンドファームにおける風車間の連接接地を推奨している.連接接地は図10のように風車間の接地電極を相互接続することであり,接地抵抗を下げる効果が得られる.
 「電気学会技術報告(6)」では,連接接地によって,雷の過渡的な電位上昇を招く恐れもあるという問題点も踏まえつつ,冬季雷のようなエネルギーの高いサージを分流することができ,雷保護に十分大きな効果をもたらすと考察している.
 海辺に近い砂丘地に建設されている鳥取県北栄町の「北条砂丘風力発電所」では,受雷による被害が極めて少ないことが報告されている.この設備では,連接接地によって接地抵抗を0.1Ωまで低減させている.


6−4 等電位ボンディング
 等電位ボンディング(10)とは,雷保護システム,金属構造体,金属製工作物,系統外導電性部分ならびに被保護物内の電力線および通信線を,ボンディング用導体またはサージ保護装置(SPD)で接続することをいう.
 等電位ボンディングは,雷保護の基本となるものであり,電気設備および電子設備の保護に対しても非常に有効な対策と考えられている.
 また,等電位ボンディングは,「共用接地」という概念によっても実現されている.従来基本とされている接地形態として,電気・通信・制御設備や雷保護設備等が個別に接地されてきたが,このような個別接地は接地極相互が十分に隔離されていれば理想的ではあるが,現実には十分な隔離が行われず,電位干渉等が生じる.
 そのため,「共用接地」の方式にならい,それぞれの接地極を相互接続し,同電位化を図ることが有効であると認識されてきている.



 

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