風力発電: 施工例 — 風力とエネルギー変換,ナセル制御盤,昇圧,基礎,接地,雷害対策(「電設技術」特集環境対応型電源,2009年1月より),
(3/3)

※内容は、執筆時点(2008年現在)の情報に基づいています。




7.導入計画と施工
7−1 導入計画
 風力発電の導入工程は,まず1年間の風況精査から始まり,風力発電設備の完成までには,最低でも3年程度はかかる.風車の建設期間に限れば,土木工事の開始から試運転までには,施設規模によって数ヶ月から1年程度の期間が必要である.
 表2は「鳥取放牧場」の導入工程を示している.ここでは,定格出力1,000kWの風車3基からなる設備が総事業費約8億円で導入され(9),風況精査から完成までに4年の歳月を要している.
 最近では,大型風車の需要が海外で急増しているが,風車製造会社の数は世界でも多くはない.そのため,風車を発注してもすぐに納入されないことも懸念され,風力発電導入計画の早い段階に,製造会社へ風車の納入時期を確認しておく必要がある.


表2 「鳥取放牧場風力発電所」の導入工程

「鳥取放牧場風力発電所」の導入工程


7−2 風況精査および環境影響調査
 風力発電の導入に先立っては,まず風況精査や環境影響調査が必要である.
 前述したように,風況精査は,高さ40m〜50m程度のタワーを建設し,風速・風向データを1年間取得するものである.この取得データを,風車に固有のパワーカーブへあてはめて予想発電量を評価し,経済性の検討を経て事業化可能性を評価する.
 その結果,事業化可能と判断されれば,風力発電所が周辺の環境へ悪影響を及ぼさないかどうかを調査する環境影響評価が必要である.この環境影響評価を実施すべき主な調査項目としては,騒音,電波障害,生態系,景観等が挙げられる.
 山間部に風車を設置する場合は,希少猛禽類や野鳥および希少植物の調査が重要な調査項目となる.風力発電設備は,希少猛禽類や野鳥の繁殖地を避けて建設することが必要とされ,1年以上かけて希少猛禽類や野鳥の生態調査がなされることもある.
 環境影響評価手法の詳細につては,NEDO技術開発機構より「風力発電のための環境影響評価マニュアル(第2版)(11)」が発行されているので,こちらを参考とされたい.なお,県によっては,風力発電を環境影響評価条例やガイドラインの対象としているため,個別に当該地域の基準を確認する必要がある.


7−3 基本設計
 風況精査および環境影響評価の結果,候補地点での風力発電設備導入の可能性が見込まれ,かつ地域住民の理解と協力が得られる目処が立てば,風車設置のための基本設計を行う.必要な基本設計の内容として,前述の環境影響評価等を含む,以下の項目が挙げられる.
①風車設置地点の決定
②風車規模の設定(容量,台数,配置)
③機種の選定
④環境影響評価
⑤測量調査・土地調査 ⑥経済性の検討
 風車設置地点については,風況精査による結果,地形条件,系統連系する送配電線までの距離,輸送路の状況および騒音・電波障害等の環境影響を考慮して,最適な位置を決定する.
 複数台の風車を設置する場合,風車の風下では,風速が減衰するために,エネルギーの取得量が大きく減少してしまう.そのため,各風車の配置は,その場所の卓越風向を考慮して決定する必要がある.
 図11のように,卓越風向と直角方向に風車を配列する場合は3D(風車ロータ直径の3倍),風車の風下方向に配列する場合は10D程度の風車間距離をとる必要がある.また,顕著な卓越風向が出現しない地域でも,10Dの風車間隔を目安とすればよいとされている(4).



風車の配置方法(複数台設置の場合)
            図11 風車の配置方法(複数台設置の場合)(4)


7−4 風車基礎工事
 風車基礎は,風車の荷重を最終的に支える構造物であるため,風車の建築物としての安定度を左右する重要な部分であり,鉄筋コンクリート造が一般的である.
 風車基礎には主に,フーチング(凸型で下部が地面の下に埋もれ,上部の数十cmが地上に出る形状の基礎)が用いられる.600〜2,000kW級の風車における基礎底面は,対辺が12〜20m程度の多角形基礎が多くなっており,基礎上部と風車のタワーとは,アンカーボルトまたはアンカーリングによって固定される.
 図12には,「鳥取放牧場」における基礎工事の状況写真を示す.直径13m程度の八角形型の基礎を採用し,杭基礎には長さ約20mの杭を地中に8本打込んでいる.
 基礎は引き抜き抵抗をもたせるため,一般的に地下に埋設する構造となっている.完成した後の補修・改良が困難であるので,基礎工事は設計通りに施工できるように厳重な管理の下に行う必要がある.
 また,十分な地耐力・引き抜き耐力(N値20〜30以上)がある良質な土層が地表近くにある場合,直接その上に基礎を作る経済的な直接基礎で行うことができる.良質な土層が深い場合は,基礎の下部に杭を設けて深部にある支持層および摩擦力を利用する杭基礎で行う.
 以下に,「風力発電導入ガイドブック(4)」による一般的な基礎の施工フローを列挙する.
①基礎杭打設工(直接基礎の場合は不要)
②掘削工(掘削面の清掃後,接地線を設置する場合は,アース線を設置する)
③基礎砕石工(ローラ等を使用して確実に転圧する)
④均しコンクリート工(型枠,鉄筋等施工しやすいように敷設する)
⑤鉄筋組立工(設計図に示す寸法・形状どおりに加工し組み立てる.また,鉄筋のひどい錆や表面の泥等は清掃する)
⑥アンカーボルト・アンカーリングの設置工(風車本体と基礎構造物の接合部分として重要であるため,コンクリート打設時に変形・移動のないよう支持固定する)
⑦型枠工事(基礎形状が狂わないように堅固であり,組立・取り外しが安全・容易であることが要求される)
⑧コンクリート打設工(打設時期,打設までの所要時間,運搬方法等を考慮して,適切な打込み方法,養生方法により施工する.「建築工事標準仕様書・同解説 JASS 5 鉄筋コンクリート工事(12)」等関係諸基準を遵守し,管理および施工には注意する)
⑨型枠脱形工(所定の強度になったら型枠を取り外す)
⑩埋め戻し工(良質土で管理を十分に行う)
⑪天端シール工(アンカーリングの場合,コンクリートとの接点に隙間が生じる可能性があるので,アンカーリングとコンクリートの天端の内外にシリコーン等でシール工を設置し,雨水等の浸入を防ぐようにするのが望ましい)



基礎工事(アンカーリング設置工事)
          図12 基礎工事(アンカーリング設置工事)


7−5 風車設置工事
【風車の輸送・組立・据付】
 大型風車の輸送には,道路の幅が大きな制約要因となるため,タワーについては,分割して輸送するなどの対策がとられる.しかし,ブレードについては,分割が困難であるため,特殊な輸送車両である「起立旋回式ブレード輸送車両」等を用いて輸送が行われる.
 図13に「鳥取放牧場」における風車ブレードの輸送状況を示す.ここでは,約30mあるブレードの輸送のために特殊なトレーラを用い,羽根を斜めに持ち上げたり旋回したりして,上空の障害物などをかわしながら,カーブや直線が短い道路を運搬している.
 「鳥取放牧場」におけるタワーの組立には,600tと100tのクレーン2台を使用し,風の状況を見ながら,4分割したタワーを下段よりクレーンで吊り上げて風車基礎に取り付け,順次1本に組み立てている(図14参照).
 なお,風車の最下部に設置される変圧器と遮断機は,風車の出入り口から搬入することが難しいため,タワー組立前にあらかじめ設置して,タワーをかぶせるように設置している(8).
 ナセルはタワーが基礎に固定された後にクレーンで据え付け,ブレードは地上でロータに取り付けた後,クレーンで吊り上げナセルに取り付けている(図15参照).



ブレードの輸送状況
          図13 ブレードの輸送状況


タワーの組立工事
          図14 タワーの組立工事


風車ロータ取付工事
          図15 風車ロータ取付工事


【制御装置据付・配線】
 風車の制御版には壁掛型と自立型があり,壁掛型の制御版は壁面へ強固に取り付ける.
 自立型制御盤において,盤の奥行きの少ない場合は,転倒防止のためにフレームパイプ等で枠組みを組んで据え付ける.十分な太さのアンカーボルトで床に留め,壁,天井,梁等から転倒防止の支持を行うことが望ましい.また,耐湿,耐温構造も施しておく必要がある.
 盤内配線は,電源側の幹線と各電動機へ至る分岐線および接地線が混乱しないようにし,それぞれの配線が上下いずれの方向から出入りするかを明確にしておく.また,列盤は分岐回路が多数あるので,配線処理のために適切な作業スペースを設けた方が良い.


7−6 電気工事
【受電引込工事】
 最近では風力発電所が大規模になってきたために,高圧のみでなく,特別高圧に連系する場合が多くなっている.特別高圧連系する場合は,電力会社に事前検討の申込みを行い,十分な協議を経て電力会社の停電工事に合わせて繋ぎこみ工事を行う必要がある.
 高圧受電引込工事を行う場合は,引込柱の設置,および引込開閉器負荷側端子から高圧受電盤までの配線・接続を行う.地盤の軟弱な箇所に電柱を建てる場合は,電柱の沈下を防止するため柱の底に割栗石やこれに相当するものを敷き詰める必要がある.
 特別高圧連系の場合は,風車発電機と連系点の距離が離れ,変電所と発電所間の電力ケーブルの事故検出を行うため,連系点近傍に変電所を設置する場合が多い.この場合,22kV(33kV)の配電規程にしたがって施工を行う.
【配電盤・キュービクル据付工事】
 高圧受電盤,変圧器盤,低圧回路盤等の組立・据付を行い,それぞれの盤間を接続する.
 また,特別高圧連系の場合は,変電所を設置し連系を行うため,変圧器,GIS(ガス絶縁開閉器),監視制御装置間の組立・設置を行い,機器間を接続する.


7−7 接地工事
 高圧受電盤,変圧器盤,低圧回路盤用の各種接地工事および雷害対策用接地工事を,「電気設備の技術基準」に準じて行う.接地線が外傷を受けるおそれがある場合は,合成樹脂管(CD管を除く)等に収める.ただし,人が触れるおそれがない場合,またはD種接地工事もしくはC種接地工事の接地線は,金属管で保護することが可能である.接地線の太さは,接地工事の種類毎に定められており,軟銅線またはこれと同等以上の強さおよび太さの耐食性のある金属線でなければならない.変電所はメッシュ接地を採用し,変電所全体を同電位化して,感電の防止と落雷対策を行う.


7−8 試運転・検査
 全ての工事完了の目処が付いたら,正常に作動し十分な性能を発揮するかの検査および試験を行う.これらの検査・試験には,次のような項目がある.
 ①外観検査,②接地抵抗測定,③絶縁抵抗測定,④絶縁耐力試験,⑤保護装置試験,⑥遮断器関係試験,⑦総合インターロック試験,⑧制御電源喪失試験,⑨負荷遮断試験,⑩遠隔監視制御試験,⑪負荷試験(出力試験),⑫騒音測定,⑬振動測定
 試運転に際しては,風力発電システムの営業運転開始後の運転資料として運転データの収集を行うことが望ましい.


謝辞
 本原稿を作成するにあたって,鳥取県企業局に風力発電設備の施工状況の写真やデータ等を提供して頂いた.ここに記して感謝申し上げる.


参考文献
(1) 石井吉徳, 石油ピークが来た 崩壊を回避する日本の「プランB」, (2007.10), 日刊工業新聞社.
(2) NEDO技術開発機構ウェブサイト「日本における風力発電設備・導入実績」,http://www.nedo.go.jp/library/fuuryoku/index.html .
(3) Global Wind 2007 Report, GWEC: Global Wind Energy Council, (2008), p.10.
(4) 風力発電導入ガイドブック(2008年2月改訂第9版),(2008.2),独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構.
(5) 「新エネルギー人材育成研修会」テキスト 風力コース,(2006.10),財団法人新エネルギー財団.
(6) 電気学会技術報告 第1126号「風力発電設備の雷害様相ならびに対策の現状」,風力発電設備の雷害様相調査専門委員会編,社団法人電気学会,(2008.8).
(7) 風力発電設備支持物構造設計指針・同解説[2007年度版],社団法人土木学会,(2007.11).
(8) 鳥取県企業局, 鳥取放牧場風力発電所の紹介, 風力エネルギー, Vol.32, No.1, 85, (2008.5), pp.153-159.
(9) 鳥取放牧場風力発電所ウェブサイト「風力発電所の設備について」,http://kigyo-toubu.sakura.ne.jp/ .
(10)高田吉治,技術連載その12雷, 風力エネルギー Journal of JWEA, Vol.32,No.1, (2008), pp.100-106.
(11)風力発電のための環境影響評価マニュアル(第2版),(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構, (2006.2).
(12)建築工事仕様書・同解説JASS5鉄筋コンクリート工事(第12版),日本建築学会,(2003.2).



 

<< 第3〜6章へ <<